【 建物について 】
愛すべき白い家
武蔵野のモダニズム空間の活用にむけて
このハウススタジオは、善福寺川に沿う緑豊かな公園のそばに建ち、クルマの騒音とは無縁の静寂の中にある。
白く塗られた横張り下見板の外観は、極めて緩い勾配の板金屋根とその軒の低さと相まって、戦後モダニズム建築のエッセンスを見事に体現している。
特筆すべきは、窓などの建具がすべて当初の木製建具のままであり、縦格子も、南側のコロニアル様式を思わせるガラリ戸も残っていること。
室内間仕切りは引戸が主で、各室の有機的な繋がりを保っている。
特にダイニングは東と南側に大開口を持ち、明るい庭とシームレスに繋がっていることも、撮影などには好都合だろう。
所有者によれば、昭和40年に隣接する土地に建設され、自宅建て替えの際にも壊してしまうのは忍びなく、十数年前に「曳き家」されて移築したという。
「曳き家」は寺社などの伝統建築を、ジャッキで持ち上げて水平移動させる技法だが、その経緯からも、この建物がいかに大切に守られてきたかを物語る。
キッチンとダイニングの仕切りのガラス戸や両側から使う引き出し、水平線を強調したスリット欄間、空間をすっきりと映えさせる引込戸の多用など、ディテールの随所にレトロなデザインソースが充ちている。
外壁や枠材のラワンなど、材料自体はけっして高価なものではないが、使い勝手とシンプルな美しさを突き詰めた愛すべき小品というべき風格を、このハウススタジオは内包している。
そのいずれもが「もどき」や「疑似」ではなく、本物であることが意味を持つ。
いまも残る周囲の閑静な武蔵野の情景とあわせて、いわば、文化財的価値を具備した建築空間といっても、過言ではないだろう。
渡邉義孝(一級建築士・尾道市立大学非常勤講師)
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建築概要
構造規模:木造平屋、トタン葺き(瓦棒葺き)51u
外壁:無垢板下見板張り(目透かし横張り)OP塗り
基礎:コンクリート布基礎(鉄筋有無は未確認)
断熱材:グラスウールを外壁、床下、屋根面、天井裏に敷き込み |